活動報告

2019年9月の第14回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。
テーマは「日本の動物園の必要性を改めて考える」として会場を神奈川県、日本大学生物資源科学部動物資源科学科を有する湘南キャンパスにて開催いたしました。前回の「日本の動物園を考える」からの発展で日本の動物園の必要性について改めて考える基調講演のプログラムと総合討論で意見と提案を繰り広げました。会場からの貴重な意見もいただき動物の福祉、保護、動物を取巻く法律にも展開された重要なシンポジウムであったと位置づけられます。


登壇者紹介


特定非営利活動法人国立動物園をつくる会主催
第14回シンポジウム
場所:日本大学湘南キャンパス
日時:2019年9月22日(日)13:00~17:00
参加費:1000円(学生無料)

テーマ:「日本の動物園の必要性を改めて考える」

開会あいさつ・シンポ趣旨説明
小菅 正夫 代表
(札幌市環境局参与円山動物園担当・北海道大学客員教授)

基調講演1
清水 弟
(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員
「動物園はいらないのか」

基調講演2
岩野 俊郎
(到津の森公園 園長)
「動物園動物の福祉」

基調講演3(40分)
諸坂 佐利
(神奈川大学法学部 准教授)
「わが国の動物園を取巻く法環境から見た動物園の価値、社会的役割、必要性」

総合討論
司会・ファシリテーター:村田浩一
(日本大学 特任教授)

討論参加
小菅 正夫、清水 弟、岩野 俊郎、諸坂 佐利


開会あいさつ・シンポジウム趣旨説明




 


基調講演


清水 弟(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員)
「動物園はいらないのか」


表題からして動物園必要論だと分かってしまうが、なぜそう考えているのか。

まず、動物園が野生動物の生態などを研究する格好の場であるからだ。例えば、ボルネオ島のテングザルを研究している京都大学霊長類研究所の松田一希さんが、英科学誌『Biology letters』(2011年3月)に「テングザルは食べものを反芻している」と報告した。松田さんの共同研究者が文献を調べると、ドイツの動物園の飼育担当者が数十年前に「様々なサルの中で、テングザルだけは吐き戻しをなくせない」と報告していた。動物園のサルの「吐き戻し」は、飼育下のストレスによる異常行動とされることも多かったが、テングザルは野生でも吐き戻す。飼育下だからこそ、長時間の行動観察が可能となり生態の解明につながるチャンスも出てくる。

やはり、動物園での異常行動と見られた「子殺し」は、大人オスが繁殖作戦として赤ちゃんを殺し、母親の発情を促す行動だ。上野動物園でもマントヒヒの乳児殺しが記録されている。『どうぶつと動物園』(1972年12月号)によると、若いオスが生後2カ月の赤ちゃんを奪って逃げた。夕方、飼育係が寝室で赤ちゃんを取りあげ、母親に返したが、赤ちゃんは翌朝、急性肺炎で死んだ。このオスは半年後、生後20日の赤ちゃんを奪って逃げ、母親との奪いあいが続いて、赤ちゃん死亡。飼育担当者は「マントヒヒの行動に『子サライ』があるものの、乳児殺しは飼育下の特殊な環境による悲劇だ」と書いた。

動物の子殺し行動を発見したのは、京都大学大学院生だった杉山幸丸さんだ。1962年にインドのサルの仲間・ハヌマンラングールでは、群を乗っ取ったオスがメスの抱えている赤ちゃんを殺してしまうことを発見した。1965年に英科学誌『Nature』に投稿したが、「異常行動に過ぎない」と掲載拒否、その後も5年続いてボツ。杉山さんの発見が認められたのは、1975年にタンザニアでライオンのオスが乳児を殺す行動が確認されたことが契機だった。子殺しは今やカバ、プレーリードッグなどでも知られる。

野生動物の生態とはいえ、動物園では大きな問題になることもある。
米国ロサンゼルス動物園で2012年6月26日、生後3カ月のチンパンジー(♀)が、大人オスに頭を殴られ、噛まれるなどして死んだ。母親は手を出せず、飼育係も現場に入れず、何もできなかった。おまけに数十人の来園者が見ている前での惨劇だった。



動物園不要論を唱える、動物愛護団体などのホームページを見ると、動物園で見られる異常行動のリストが出ている。

①異常な性行動
②神経性の食欲不振、強迫障害
③髪の毛や体毛、髭をむしり取る
④鳥が巣に居続ける
⑤カニバリスム(肉や内臓を食べる)
⑥糞便食、土や草を食べる、樹木を食べる
⑦肉食動物が草を食べる、草食動物が肉を食べる
⑧鉄枠を噛んだり曲げたり舐めたりする
⑨過剰に鳴いたり叫んだりする
⑩子殺し


などだ。飼育スペースが限られた動物園では、体を左右前後に揺らし続けることや目的もなく同じ行動を繰り返す常同行動もよく知られている。

しかし、多摩動物公園で撮影されたキリンがハトを食べる瞬間(「どうぶつと動物園」1970年3月号)も、その後、アフリカでキリンが死んだ動物の骨をしゃぶるのが確認されたことから、異常行動というべきかどうか判断が分かれることになった。動物の生態や行動はまだまだ謎だらけで、動物園での行動観察はもっと重視されるべきだ。

次に、現代の動物園や水族館は、国境を超えて世界の動物園・水族館と国際的なネットワークで結ばれてい。例えば、ホッキョクグマの飼育施設を細かく規定した「マニトバ・ルール」によると、居室に自然光が入ることが必要条件になっている。上野動物園のホッキョクグマ舎の通路の脇にも、自然光を入れる窓がある。こうし国際標準(Global Standard)を満たさないと、繁殖のためのブリーディング・ローンなど動物の国際的な貸し借りができなくなる。

米国動物園水族館協会(AZA)のホームページにはコンドル、ジャガー、クラゲ、マングース、ホッキョクグマ、ペンギン、トラなど30種以上の詳細な飼育マニュアが公開されている。チンパンジーなどはスペイン語版があり、チンパンジーには日本語訳まで付いていることからも、飼育基準の国際標準を目指していることがうかがえる。

飼育技術には国境がない。上野動物園のニホンザルを担当していた青木孝平さんは、サルに与える餌の量を季節変化させることを試みた。動物園では年間を通じて同じ量の餌を与えてきたが、野生なら、春は草木が芽吹いてテ食糧が増えるが、夏は食べ物が少なくなり、木の実などが豊富な秋から、厳しい冬へと季節変化が極めて大きい。青木さんは、米や麦、麻の実、シラカシ、ネズミモチ、笹など枝は、季節の果物や野菜、サル用ペレットなどの餌の量を調整して、1日の摂取量を春は570Kcal、夏470kcal、秋は610kcal、冬450kcalと変化させてみた。2011年から3年間、サル山にいる36頭の体重変化を調べた結果、野生に近い季節変化が確認できた。青木さんの報告は『Zoo Biology』(2015年5・6月号)に掲載され、プラハ動物園の飼育担当者から「我々も餌の量を季節変化させてみたい」とメールが届くなど国際的な反響があった、という。

世界には動物観の違いという厄介な問題もある。コペンハーゲン動物園で2014年2月9日、2歳のキリン♂(MARIUS)が近親交配で飼育に値しないとして安楽死させた。死体は来園者の見守る中で解体し、園内のライオンの餌となった。このケースは国際的に批判が巻き起こったが、欧州動物園水族館(EAZA、47か国・410園加盟)は「コペンハーゲン動物園の決定と方針を全面的に支持する」とコメント。AZAは「米国の動物園・水族館は過剰な繁殖を最小限に抑えていて、あんな事件は起こり得ない」と指摘、中には「前代未聞の最悪で無感覚の馬鹿げた処置」と呆れる動物園長もいた。

動物福祉を求める声が高まり、動物園の存在意義も大きく揺らいでいる。
スペインのバルセロナ動物園(1892年開園)は、300種類で12000頭の動物を飼育しているが、バルセロナ市議会が2019年5月、「動物園新計画」を満場一致で可決。2031年までに総額6億4600万ユーロ(約775億円)を投じて施設を整備、地中海の動物を中心に北アフリカ、サハラ砂漠の絶滅危惧種の保全に力を入れ、ライオン、キリンなどの繁殖は止める。動物園を環境教育の拠点とし大学や研究機関との連携を強化するという。ヨーロッパ初の「Animalist ZOO(動物権動物園)」とも言われるが、飼育している動物を原産地に戻したり、サンクチュアリを確保したり、実現性は極めて低いと思われる。

日本動物園水族館協会(JAZA)に入っている91園の飼育動物を全部合わせると、

① 哺乳類 31186点
② 鳥類 17947点
③ 爬虫類 4775点
④ 両生類 3514点
⑤ 魚類 235232点
⑥ 無脊椎動物 37442点


総計で118530点となる。職員数は正規・非正規を合わせて全部で4977人に達する。

これだけの動物を抱え、多くの職員が支える日本の動物園は、現在は、国際的なネットワークで結ばれた組織である。動物本来の生態や行動を可能な限り再現した環境で飼育することで、絶滅危惧種の復活など、「宇宙船・地球号」の自然生態系を未来の人類に伝えるのが、動物園の仕事ではないか。そのためにも動物福祉を大前提に、動物園そのものを再構築すべきである。


岩野 俊郎(到津の森公園 園長)
「動物園動物の福祉」



諸坂 佐利(神奈川大学法学部 准教授)
「わが国の動物園を取巻く法環境から見た動物園の価値、社会的役割、必要性」




 


総合討論


小菅正夫 氏(特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授)
岩野 俊郎 氏(北九州市 到津の森公園 園長)
清水 弟 氏(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員)
諸坂 佐利 氏(神奈川大学准教授)

司会・ファシリテーター:村田 浩一 氏(日本大学 特任教授)



2019年5月の第13回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。
テーマは『日本の動物園の新地平~北の大地から日本の動物園を考える』として会場を北海道札幌市円山動物園・科学館ホールにて地元北海道ほか全国より100名以上の市民らの参加者をいただき開催いたしました。

基調講演では当会の岩野俊郎氏から始まり、古賀公也・釧路市動物園園長、加藤修・円山動物園園長の講演をいただき、参加者のみなさまにこれまでの動物園のこと、そしてこれからの動物園、動物の飼育、保護、環境の保全のことまでを考えた意見の発表と提案をすることができました。目指す国立動物園のカタチやアイデア、また動物そのものの法律的な問題や解決への思いなど、6名(小菅氏、岩野氏、古賀氏、加藤氏、あべ氏、成島氏)による総合討論でものそれぞれの意見と提案を示しました。

旭山動物園を始め様々な取組みと挑戦をしてきた北の大地での第13回シンポジウムは地元メディアにも取り上げられ、新たな展開を感じさせるシンポジウムとなりました。


登壇者紹介


特定非営利活動法人国立動物園をつくる会主催
第13回 シンポジウム

場所:札幌市円山動物園 科学館ホール
日時:2019年5月11日(土)13:00~17:00
参加費:無料(※円山動物園への入場料金は必要です)
テーマ:『日本の動物園の新地平~北の大地から日本の動物園を考える』

開会あいさつ・シンポ趣旨説明
小菅 正夫 代表
(札幌市環境局参与円山動物園担当・北海道大学客員教授)

基調講演1(40分)
岩野 俊郎(到津の森公園 園長)
「動物園のデザイン」

基調講演2(40分)
古賀 公也(釧路市動物園 園長)
「市民に支えられる最東端の動物園の今」

基調講演3(40分)
加藤 修(円山動物園園長)
「円山の新挑戦、改革の進捗」

総合討論
司会:諸坂佐利(神奈川大学)

討論参加
小菅正夫、岩野俊郎、古賀公也、加藤修、あべ弘士、成島悦雄


開会あいさつ・シンポ趣旨説明




 


基調講演


岩野 俊郎(到津の森公園 園長)「動物園のデザイン」


12回のシンポジウムで取り上げたテーマ「動物園のデザイン」を13回シンポジウムではよりポリシーを必要とする動物園のデザインについて提示していく。動物園は「自由」に生きるという動物の「多様な選択肢」の剥奪になっている。これからの動物園は単に「見せる」、「見る」からいわゆる「展示」からの変革が必要。

この「展示」という言葉についてはここ数回のシンポジウムの討論においても表現についてから始まり、動物園のポリシーから生まれる、動物の見せ方にもつながっている。それは構造物のデザインのみでは変えることができない。

空間をどのように活用するか。どのような意図をもたせるか。なぜそれが必要か。デザインという言葉の意味は入念な「計画・立案」であり、重要なのは「ポリシー」あるいは「倫理的思考」である。「我々は何のために存在するのか」という哲学的な意義の確定。動物園にもそれが必要だ。明確なポリシーあるいはフィロソフィー。少なくとも直近10年もしくは15年揺るがない決心でおこなう。そして明確なコンセプトを持った戦略と準備、計画、運用を示す。



古賀 公也(釧路市動物園 園長)「市民に支えられる最東端の動物園の今」


釧路市動物園は北海道釧路市阿寒町にある日本最東端の動物園。 1975年に開園し総敷地面積47.8haとゆったりしとした北海道最大の動物園である。動物の保護研究機関として1995年に世界で初めてシマフクロウの飼育下での繁殖に成功しており、国内唯一のシマフクロウ保護育成センターになっている。

北海道の中でも自然豊かな環境の中にある。アムールトラのタイガとココアの懸命に生きようとする姿が注目され多くの市民や人に支えられて、多くのメディアや書籍にもなった。施設は決して先進的な展示や運営ができているわけではないが、タンチョウヅルをはじめ多くの繁殖と保育にも成功しており、何より市民に支えられての展示のアイデアなど、釧路という環境にある動物園としてこれから明確に何を伝えていくのか、環境の保全と動物の保全、市民や地域への感謝と還元を目指している。



加藤 修(円山動物園園長)「円山の新挑戦、改革の進捗」


1950年(昭和25年)上野動物園の移動動物園を札幌にて開催し、好評を得たことが起源。2003年(平成15年)に旭川市旭山動物園に入場者数を抜かれたがその後、整備に力を入れ始め入場者数は増加傾向にある。 最初の飼育展示動物は3種4点。2019年3月現在は168種943点(昆虫類を除く)を展示飼育。総面積は224,780㎡。飼育下での自然繁殖が難しいとされるホッキョクグマの繁殖に成功している。

現在ではホッキョクグマ館リニューアル、ゾウ舎オープンと、進化する動物園と称されているが、改善前は管理体制の見直しや全職員への適正飼育を理解するための教育の実施、動物の健康、安全のための施設の総点検など、多くの改善勧告を受けた動物園であった。

動物専門員という技術職員の配置で自らの仕事を自ら考え、上司と相談しながら自ら実施し、結果についても自ら責任をとることで意識と技術、スキル、経験値を高めていった。環境教育の施設として、より多くのお客様に来園していただくことは必要ではあるが、何人の方に来ていただくか、ではなく「来ていただいた方の何割の方に、自然や地球について考えていただけたか」が大切だと考えている。

すべての人が自然環境の大切さを「実感」し、自然を守るために「行動」し、自然と人が共生する持続可能な社会の「実現」に貢献するため、円山動物園は「動物福祉」を根幹に生物多様性の「保全」と「教育」に力を入れていくとともに「調査・研究」「リ・クリエーション」を行っていく。




 


総合討論


小菅正夫 氏
(特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授)

岩野 俊郎 氏(北九州市 到津の森公園 園長)
古賀 公也 氏(釧路市動物園 園長)
加藤 修 氏(円山動物園園長)
あべ 弘士 氏(絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長)
成島 悦雄 氏(公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授 

司会・進行:諸坂 佐利 氏(神奈川大学准教授)


第13回のシンポジウムの最終プログラムは園長経験を持つ小菅氏、元飼育員経験を持つあべ氏、現在も園長として運営に携わる岩野氏、古賀氏、加藤氏、そして豊富な知識と経験を持つ成島氏、それぞれの立場での意見を100名を越える市民や動物園関係者の前で討論できたことは「国立動物園の開設の必要」を一歩、二歩と踏み込んでこれからの動物園の意義や役割、環境や野生動物の保全に向けた考えを人々に伝える機会となった。
多くの国民が国立動物園を必要だと思っていただくことが大切であり、そのカタチは必ずしも新しい施設をつくることではなく、今ある環境、施設を活かし「保全に特化したセンターをつくって動物を飼育し、その様子を一般に見せていく施設」など、提案、アイデアは尽きることがない。国立の施設ができれば野生生物の研究、保全が進むであろう。また法律的にも動物園に意義や役割を定めた動物園法の整備も必要である。日本の動物園の今後について、これからも議論を交わし絶滅の危機にある動物の保護、多様性の維持を目指す。



テーマ 「日本の動物園の新地平~北の大地から日本の動物園を考える」


開催日:2019年5月11日(土)13:00~17:00
場所:札幌市円山動物園 科学館ホール
https://www.city.sapporo.jp/zoo/b_f/index.html

プログラム

13:00
開会あいさつ・シンポ趣旨説明
◼️小菅 正夫 氏
  札幌市環境局参与円山動物園担当・北海道大学客員教授

13:05
プログラム1
基調講演1(40分)
「動物園のデザイン」
◼️岩野 俊郎 氏
  特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授

13:45
プログラム2
基調講演2(40分)
「市民に支えられる最東端の動物園の今」
◼️古賀 公也 氏
  釧路市動物園 園長

14:25

プログラム3
基調講演3(40分)
「円山の新挑戦、改革の進捗」
◼️加藤 修 氏
  円山動物園 園長

15:15
プログラム4
総合討論

上記のプログラムを受けての問題提起、質疑応答(フロアを交えて)

◼️小菅正夫 氏
  特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授
◼️岩野 俊郎 氏
  北九州市 到津の森公園 園長
◼️あべ 弘士 氏
  絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長
◼️成島 悦雄 氏
  (公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授
◼️古賀 公也 氏
  釧路市動物園 園長
◼️加藤 修 氏
 円山動物園 園長

司会・進行:諸坂佐利(神奈川大学准教授)

17:00 閉会


シンポジウム報告


2019年5月の第13回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。

今回は札幌の円山動物園内にてシンポジウムを行い、100名を超える参加者や報道陣などさまざまな方々に参加いただきました。動物園内にて動物園がどうあるべきかを考えるシンポジウムは、大変意味深いものだったと考えております。ご質問もご意見も活発に飛び交い、有意義な会であったと思います。

今回ご登壇いただきましたの方の考えを掲載いたしておりますので、どうぞご覧ください。


第13回シンポジウム概要報告はこちら



2018年12月の第12回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。

前回のテーマを引き続き「動物園をデザインする2」に動物園関係者から学生の方々にも興味を持たれ、多くの参加をいただきました。今後将来、動物園はどうデザインされるべきか?、実際の実例をご紹介しながら、種の保存、環境、教育など学問研究の立場や実際に動物園を設計、マネジメントをする立場であるリーダーたちにご登壇いただき、議論を交えました。

今回ご登壇いただきました方の考えを掲載いたしておりますので、どうぞご覧ください。


登壇者紹介


◾️ 小菅 正夫 氏
特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学客員 教授

◾️ あべ 弘士 氏
絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長

◾️ 岩野 俊郎 氏
到津の森公園 園長

◾️ 森田 哲夫 氏
宮崎大学 名誉教授

◾️ 成島 悦雄 氏
(公社)日本動物園水族館協会専務 理事・日本獣医生命科学大学客員 教授

◾️ 松崎 淳 氏
株式会社とんざこ設計室 代表

◾️ 河村 敏彦 氏
DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家


プログラム1 基調講演


「日本の動物園のデザインにおける現状と課題、そして今後の展望」


特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授 小菅 正夫 氏


~旭山動物園での実例~


第11回シンポジウムでの基調講演において示された、動物園デザインの定義に沿って旭山動物園の再生時に我々が立てた“入念な計画”を紹介する。


1. 揺らがない指針の策定


テーゼを『伝えるのは 命』とした。形態比較展示ではない、生態的展示はない、命を展示しようと考えたのだ。命は肉体と共に在ってしか感じられないが、突然生ずるものでもなく、肉体の死によって消え去るものでもない。命を展示するためには、命の繋がりつまり交尾・出産・育児を見せることが必要。この連続の中に微妙な変化が生じ、無限の連鎖がその集積により別種を生み出すことで、種の多様性を生み出し、まるで幹から枝葉に拡がるような系統樹を形成するように進化が見られることを展示を通して伝えようと考えた。そのためには、誕生以前から、繁殖による命の連続、そして肉体の死までを展示することが必要だと考えたのだ。

具体的に、霊長類の展示計画例を紹介する。
旭山動物園では、開園当時からマカク5種とマンドリル、テナガザル、チンパンジーを飼育していた。施設の増築は不可能な状況であったが、展示動物を変更することで先のテーゼに沿った飼育計画を立案し実施した。霊長類の進化を考え、原猿の代表としてワオキツネザルを飼育し、次に広鼻猿のクモザル、狭鼻猿のうちアフリカ系2種とアジア系1種を集めた。ヒト上科としてテナガガザル、ヒト科のオランウータン、チンパンジーを揃え、原猿からヒトへと向かう命の繋がりを展示することとした。


2. 科学的視点の動物舎デザイン


何を展示するかを決定した後は、どう展示するかだ。
飼育施設の建設に当たっては、科学的視点でのデザインが必要となる。彼らが生きていく上で最も快適なのは生息地の自然環境である。よって、施設の計画者が直接現地へ行って、動物の暮らしとその環境を観察し、実感することが肝要だ。その感覚に基づいて、動物が利用する構造物を考案し、彼らの行動を如何にして誘発するかを考えることが重要だ。また、自然界では決して見られない、飼育下特有の行動については、何としても発現されないような工夫も必要となる。

オランウータン舎について、それらの考え方を紹介する。
もともと、この獣舎はゴリラを飼育していた施設であった。オランウータンの暮らしはボルネオ・サバ州のダナンバレーで観察することができる。生息地は30m以上もある高木が生え揃っており、彼らは樹上で暮らし、ほとんど地上に降りることはない。(時に塩類泉へ降りていき、それを飲むことが知られている)また、移動手段は直径5cmほどの樹を引き寄せて掴まり大きくたわませて次の樹を引き寄せて移っていく。地面はもちろん凸凹がありしかも下草が茂っているので、我々がその後を追うことはとてもできない。

これらの環境をどう飼育環境に取り入れることができるか、が施設デザインの基本となる。先ずは30m程度の鉄塔を建て、その間に棒高跳びに使用する柔軟で折れない細めの棒を数本立てて、これを利用して彼らが独自の行動が取れるようにしたかったが、そのアイディアは屋内施設でこそ可能であるが、屋外で計画するとなると逸走防止の観点から高さのほぼ2倍以上の敷地が必要なることは自明である。そこで旭山では2本の塔をロープで繋ぎ、ブラキエーションができるようにしようと考えた。ところが、30mもの円柱は途中で溶接しなければ製造できず、溶接すれば長年使用すると金属疲労で折れてしまう危険性があるとされ、一本物としては最長の地上高17mで作製することとした。次にロープで繋ぎ、腕渡りをさせることについても、構造計算の結果、金属疲労を早めるため不可能と判定されてしまい、塔をH鋼で繋いで下にロープを繋ぎ止めて使用するように設計した。

また、既存の放飼場の天井檻は鉢を拡げたように開き、万が一落下しても施設外への逸走を防ぐ構造を取り、外の塔の中段部分には球体の居住スペースを設け、地面は掘り下げて50cmほどの水を張って、飼育下でしか見られない地上で休むことを不可能とした。

この施設では、オランウータン本来の樹上行動が見られ、さらには交尾、出産、育児行動が見られ、第二子出産の一週間後には、腹に新生児を抱いて第一子を伴って渡って行く様子が観察された。動物が快適に暮らし、命を繋いで行く様子を展示することが、テーゼ『伝えるのは 命』の実践である。


3. 当時は見過ごしてしまったデザイン


日本の動物園で、最も貧困なのは“野生個体群との関わり”である。動物園は域外保全施設であると表明している動物園も見受けられるが、域外保全とは域内保全を保管するために必要なので、生息地での保全活動と関わりを持たない域外保全など、まったく意味がない。少なくとも、生息地との交流を進め、リアルタイムで生息地情報を開示する努力はすべきだ。また、保全に拘わる現地組織を支援することができれば、域外保全の意味も多少は認められるかもしれない。

また、岩野氏の提唱する(第11回シンポジウム)“生物同士としての科学的理解”について、日本の動物園ではまだまだ研究者が不足していると言わざるを得ない。最近一部の動物園では、ようやく生物学や生態学を修めた人や動物行動学、心理学、さらには哲学を修めた人が動物園技術者として動物園の現場へ入って来るようになった。

将来の動物園デザインを考えるとき、この分野の整備は絶対に必要である。そのことを内外に示すのが国立動物園設立の大きな意義であると考えている。




 


プログラム2 対談


「旭山動物園の軌跡と奇跡」


特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授 小菅 正夫 氏
絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長 あべ 弘士 氏



補足コメント:松崎 淳 <株式会社とんざこ設計室 代表>

小菅さんとあべさんの話を聞いて、あべさんが「獣医と飼育員の技術の関係」を小菅さんが入ってきたときの話でしゃべられてました。飼育員の方がすごいんだという話はすごく楽しかったです。あの話を聞いて、飼育員にも認定制度があればいいのにと思いました。飼育員が技術研修(飼育技術だけでなく、動物福祉、研究、環境教育など多面で)を行うと、1級、2級とか技術を認める制度があれば、飼育員の地位が上がるのではないかなと獣医より上の認定の階級があってもおもしろいなと。国立動物園をつくる会には、様々な技術を持っている人がおられるので、環境省などと連携して国の認定制度をつくっても面白いのではないかと感じました。



 


プログラム3 総合討論


絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長 あべ 弘士 氏
北九州市 到津の森公園 園長 岩野 俊郎 氏
宮崎大学名誉教授 森田 哲夫 氏
(公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授 成島 悦雄 氏
株式会社とんざこ設計室 代表 松崎 淳 氏
DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家 河村 敏彦 氏

司会・進行:神奈川大学准教授 諸坂 佐利 氏



補足コメント:河村敏彦 <DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家>

デザインを仕事としている立場で「動物園をデザインする」というテーマで総合討論に参加いたしました。デザインをするうえで必要な情報とスキルはデザインする分野で違いますが、動物園のデザインとなるとデザイナーに求められる情報とスキルは動物の生態や環境、飼育に関する専門的な情報など特別なものが必要で、新たにデザイナーそれぞれが情報の収集や勉強をすることが求められます。デザイナーには当然それも必要ですが、動物園のデザインができる専門的なデザイナーの養成が必要なのではと考えています。動物専門学校や大学での動物を扱うためのデザインカリキュラムです。現在デザイナーの専門分野も多方面に広がっています。動物園をデザインするデザイナーがそろそろ誕生していいと思います。そして日本人の心で動物の暮らしや環境を考えられるデザイナーが世界に影響を与えてくれたらいいなと思います。



テーマ 「動物園をデザインする2」


開催日:2018年12月15日(土)13:00~17:00
場所:日本大学(湘南キャンパス)生物資源科学部 1号館3階の131講義室
http://www.brs.nihon-u.ac.jp/campus_life/campus_map.html

プログラム

プログラム1
基調講演(60分)
「日本の動物園のデザインにおける現状と課題、そして今後の展望」
◼️小菅 正夫 氏
  特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授

プログラム2
対談(60分)
「旭山動物園の軌跡と奇跡」
◼️小菅 正夫 氏
  特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授
◼️あべ 弘士 氏
  絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長

プログラム3
総合討論(100分)
上記の1、2のプログラムを受けての問題提起、質疑応答(フロアを交えて)

◼️あべ 弘士 氏
  絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長
◼️岩野 俊郎 氏
  北九州市 到津の森公園 園長
◼️森田 哲夫 氏
  宮崎大学名誉教授
◼️成島 悦雄 氏
  (公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授
◼️松崎 淳 氏
  株式会社とんざこ設計室 代表
◼️河村 敏彦 氏
  DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家

司会・進行:諸坂佐利(神奈川大学准教授)

17:00 閉会


シンポジウム報告


2018年12月の第12回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。

前回のテーマを引き続き「動物園をデザインする2」に動物園関係者から学生の方々にも興味を持たれ、多くの参加をいただきました。今後将来、動物園はどうデザインされるべきか?、実際の実例をご紹介しながら、種の保存、環境、教育など学問研究の立場や実際に動物園を設計、マネジメントをする立場であるリーダーたちにご登壇いただき、議論を交えました。

今回ご登壇いただきましたの方の考えを掲載いたしておりますので、どうぞご覧ください。


第12回シンポジウム概要報告はこちら