活動報告

2018年12月の第12回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。

前回のテーマを引き続き「動物園をデザインする2」に動物園関係者から学生の方々にも興味を持たれ、多くの参加をいただきました。今後将来、動物園はどうデザインされるべきか?、実際の実例をご紹介しながら、種の保存、環境、教育など学問研究の立場や実際に動物園を設計、マネジメントをする立場であるリーダーたちにご登壇いただき、議論を交えました。

今回ご登壇いただきました方の考えを掲載いたしておりますので、どうぞご覧ください。


登壇者紹介


◾️ 小菅 正夫 氏
特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学客員 教授

◾️ あべ 弘士 氏
絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長

◾️ 岩野 俊郎 氏
到津の森公園 園長

◾️ 森田 哲夫 氏
宮崎大学 名誉教授

◾️ 成島 悦雄 氏
(公社)日本動物園水族館協会専務 理事・日本獣医生命科学大学客員 教授

◾️ 松崎 淳 氏
株式会社とんざこ設計室 代表

◾️ 河村 敏彦 氏
DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家


プログラム1 基調講演


「日本の動物園のデザインにおける現状と課題、そして今後の展望」


特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授 小菅 正夫 氏


~旭山動物園での実例~


第11回シンポジウムでの基調講演において示された、動物園デザインの定義に沿って旭山動物園の再生時に我々が立てた“入念な計画”を紹介する。


1. 揺らがない指針の策定


テーゼを『伝えるのは 命』とした。形態比較展示ではない、生態的展示はない、命を展示しようと考えたのだ。命は肉体と共に在ってしか感じられないが、突然生ずるものでもなく、肉体の死によって消え去るものでもない。命を展示するためには、命の繋がりつまり交尾・出産・育児を見せることが必要。この連続の中に微妙な変化が生じ、無限の連鎖がその集積により別種を生み出すことで、種の多様性を生み出し、まるで幹から枝葉に拡がるような系統樹を形成するように進化が見られることを展示を通して伝えようと考えた。そのためには、誕生以前から、繁殖による命の連続、そして肉体の死までを展示することが必要だと考えたのだ。

具体的に、霊長類の展示計画例を紹介する。
旭山動物園では、開園当時からマカク5種とマンドリル、テナガザル、チンパンジーを飼育していた。施設の増築は不可能な状況であったが、展示動物を変更することで先のテーゼに沿った飼育計画を立案し実施した。霊長類の進化を考え、原猿の代表としてワオキツネザルを飼育し、次に広鼻猿のクモザル、狭鼻猿のうちアフリカ系2種とアジア系1種を集めた。ヒト上科としてテナガガザル、ヒト科のオランウータン、チンパンジーを揃え、原猿からヒトへと向かう命の繋がりを展示することとした。


2. 科学的視点の動物舎デザイン


何を展示するかを決定した後は、どう展示するかだ。
飼育施設の建設に当たっては、科学的視点でのデザインが必要となる。彼らが生きていく上で最も快適なのは生息地の自然環境である。よって、施設の計画者が直接現地へ行って、動物の暮らしとその環境を観察し、実感することが肝要だ。その感覚に基づいて、動物が利用する構造物を考案し、彼らの行動を如何にして誘発するかを考えることが重要だ。また、自然界では決して見られない、飼育下特有の行動については、何としても発現されないような工夫も必要となる。

オランウータン舎について、それらの考え方を紹介する。
もともと、この獣舎はゴリラを飼育していた施設であった。オランウータンの暮らしはボルネオ・サバ州のダナンバレーで観察することができる。生息地は30m以上もある高木が生え揃っており、彼らは樹上で暮らし、ほとんど地上に降りることはない。(時に塩類泉へ降りていき、それを飲むことが知られている)また、移動手段は直径5cmほどの樹を引き寄せて掴まり大きくたわませて次の樹を引き寄せて移っていく。地面はもちろん凸凹がありしかも下草が茂っているので、我々がその後を追うことはとてもできない。

これらの環境をどう飼育環境に取り入れることができるか、が施設デザインの基本となる。先ずは30m程度の鉄塔を建て、その間に棒高跳びに使用する柔軟で折れない細めの棒を数本立てて、これを利用して彼らが独自の行動が取れるようにしたかったが、そのアイディアは屋内施設でこそ可能であるが、屋外で計画するとなると逸走防止の観点から高さのほぼ2倍以上の敷地が必要なることは自明である。そこで旭山では2本の塔をロープで繋ぎ、ブラキエーションができるようにしようと考えた。ところが、30mもの円柱は途中で溶接しなければ製造できず、溶接すれば長年使用すると金属疲労で折れてしまう危険性があるとされ、一本物としては最長の地上高17mで作製することとした。次にロープで繋ぎ、腕渡りをさせることについても、構造計算の結果、金属疲労を早めるため不可能と判定されてしまい、塔をH鋼で繋いで下にロープを繋ぎ止めて使用するように設計した。

また、既存の放飼場の天井檻は鉢を拡げたように開き、万が一落下しても施設外への逸走を防ぐ構造を取り、外の塔の中段部分には球体の居住スペースを設け、地面は掘り下げて50cmほどの水を張って、飼育下でしか見られない地上で休むことを不可能とした。

この施設では、オランウータン本来の樹上行動が見られ、さらには交尾、出産、育児行動が見られ、第二子出産の一週間後には、腹に新生児を抱いて第一子を伴って渡って行く様子が観察された。動物が快適に暮らし、命を繋いで行く様子を展示することが、テーゼ『伝えるのは 命』の実践である。


3. 当時は見過ごしてしまったデザイン


日本の動物園で、最も貧困なのは“野生個体群との関わり”である。動物園は域外保全施設であると表明している動物園も見受けられるが、域外保全とは域内保全を保管するために必要なので、生息地での保全活動と関わりを持たない域外保全など、まったく意味がない。少なくとも、生息地との交流を進め、リアルタイムで生息地情報を開示する努力はすべきだ。また、保全に拘わる現地組織を支援することができれば、域外保全の意味も多少は認められるかもしれない。

また、岩野氏の提唱する(第11回シンポジウム)“生物同士としての科学的理解”について、日本の動物園ではまだまだ研究者が不足していると言わざるを得ない。最近一部の動物園では、ようやく生物学や生態学を修めた人や動物行動学、心理学、さらには哲学を修めた人が動物園技術者として動物園の現場へ入って来るようになった。

将来の動物園デザインを考えるとき、この分野の整備は絶対に必要である。そのことを内外に示すのが国立動物園設立の大きな意義であると考えている。




 


プログラム2 対談


「旭山動物園の軌跡と奇跡」


特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授 小菅 正夫 氏
絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長 あべ 弘士 氏



補足コメント:松崎 淳 <株式会社とんざこ設計室 代表>

小菅さんとあべさんの話を聞いて、あべさんが「獣医と飼育員の技術の関係」を小菅さんが入ってきたときの話でしゃべられてました。飼育員の方がすごいんだという話はすごく楽しかったです。あの話を聞いて、飼育員にも認定制度があればいいのにと思いました。飼育員が技術研修(飼育技術だけでなく、動物福祉、研究、環境教育など多面で)を行うと、1級、2級とか技術を認める制度があれば、飼育員の地位が上がるのではないかなと獣医より上の認定の階級があってもおもしろいなと。国立動物園をつくる会には、様々な技術を持っている人がおられるので、環境省などと連携して国の認定制度をつくっても面白いのではないかと感じました。



 


プログラム3 総合討論


絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長 あべ 弘士 氏
北九州市 到津の森公園 園長 岩野 俊郎 氏
宮崎大学名誉教授 森田 哲夫 氏
(公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授 成島 悦雄 氏
株式会社とんざこ設計室 代表 松崎 淳 氏
DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家 河村 敏彦 氏

司会・進行:神奈川大学准教授 諸坂 佐利 氏



補足コメント:河村敏彦 <DIDE 代表 クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー・農業家>

デザインを仕事としている立場で「動物園をデザインする」というテーマで総合討論に参加いたしました。デザインをするうえで必要な情報とスキルはデザインする分野で違いますが、動物園のデザインとなるとデザイナーに求められる情報とスキルは動物の生態や環境、飼育に関する専門的な情報など特別なものが必要で、新たにデザイナーそれぞれが情報の収集や勉強をすることが求められます。デザイナーには当然それも必要ですが、動物園のデザインができる専門的なデザイナーの養成が必要なのではと考えています。動物専門学校や大学での動物を扱うためのデザインカリキュラムです。現在デザイナーの専門分野も多方面に広がっています。動物園をデザインするデザイナーがそろそろ誕生していいと思います。そして日本人の心で動物の暮らしや環境を考えられるデザイナーが世界に影響を与えてくれたらいいなと思います。