活動報告

2019年9月の第14回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。
テーマは「日本の動物園の必要性を改めて考える」として会場を神奈川県、日本大学生物資源科学部動物資源科学科を有する湘南キャンパスにて開催いたしました。前回の「日本の動物園を考える」からの発展で日本の動物園の必要性について改めて考える基調講演のプログラムと総合討論で意見と提案を繰り広げました。会場からの貴重な意見もいただき動物の福祉、保護、動物を取巻く法律にも展開された重要なシンポジウムであったと位置づけられます。


登壇者紹介


特定非営利活動法人国立動物園をつくる会主催
第14回シンポジウム
場所:日本大学湘南キャンパス
日時:2019年9月22日(日)13:00~17:00
参加費:1000円(学生無料)

テーマ:「日本の動物園の必要性を改めて考える」

開会あいさつ・シンポ趣旨説明
小菅 正夫 代表
(札幌市環境局参与円山動物園担当・北海道大学客員教授)

基調講演1
清水 弟
(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員
「動物園はいらないのか」

基調講演2
岩野 俊郎
(到津の森公園 園長)
「動物園動物の福祉」

基調講演3(40分)
諸坂 佐利
(神奈川大学法学部 准教授)
「わが国の動物園を取巻く法環境から見た動物園の価値、社会的役割、必要性」

総合討論
司会・ファシリテーター:村田浩一
(日本大学 特任教授)

討論参加
小菅 正夫、清水 弟、岩野 俊郎、諸坂 佐利


開会あいさつ・シンポジウム趣旨説明




 


基調講演


清水 弟(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員)
「動物園はいらないのか」


表題からして動物園必要論だと分かってしまうが、なぜそう考えているのか。

まず、動物園が野生動物の生態などを研究する格好の場であるからだ。例えば、ボルネオ島のテングザルを研究している京都大学霊長類研究所の松田一希さんが、英科学誌『Biology letters』(2011年3月)に「テングザルは食べものを反芻している」と報告した。松田さんの共同研究者が文献を調べると、ドイツの動物園の飼育担当者が数十年前に「様々なサルの中で、テングザルだけは吐き戻しをなくせない」と報告していた。動物園のサルの「吐き戻し」は、飼育下のストレスによる異常行動とされることも多かったが、テングザルは野生でも吐き戻す。飼育下だからこそ、長時間の行動観察が可能となり生態の解明につながるチャンスも出てくる。

やはり、動物園での異常行動と見られた「子殺し」は、大人オスが繁殖作戦として赤ちゃんを殺し、母親の発情を促す行動だ。上野動物園でもマントヒヒの乳児殺しが記録されている。『どうぶつと動物園』(1972年12月号)によると、若いオスが生後2カ月の赤ちゃんを奪って逃げた。夕方、飼育係が寝室で赤ちゃんを取りあげ、母親に返したが、赤ちゃんは翌朝、急性肺炎で死んだ。このオスは半年後、生後20日の赤ちゃんを奪って逃げ、母親との奪いあいが続いて、赤ちゃん死亡。飼育担当者は「マントヒヒの行動に『子サライ』があるものの、乳児殺しは飼育下の特殊な環境による悲劇だ」と書いた。

動物の子殺し行動を発見したのは、京都大学大学院生だった杉山幸丸さんだ。1962年にインドのサルの仲間・ハヌマンラングールでは、群を乗っ取ったオスがメスの抱えている赤ちゃんを殺してしまうことを発見した。1965年に英科学誌『Nature』に投稿したが、「異常行動に過ぎない」と掲載拒否、その後も5年続いてボツ。杉山さんの発見が認められたのは、1975年にタンザニアでライオンのオスが乳児を殺す行動が確認されたことが契機だった。子殺しは今やカバ、プレーリードッグなどでも知られる。

野生動物の生態とはいえ、動物園では大きな問題になることもある。
米国ロサンゼルス動物園で2012年6月26日、生後3カ月のチンパンジー(♀)が、大人オスに頭を殴られ、噛まれるなどして死んだ。母親は手を出せず、飼育係も現場に入れず、何もできなかった。おまけに数十人の来園者が見ている前での惨劇だった。



動物園不要論を唱える、動物愛護団体などのホームページを見ると、動物園で見られる異常行動のリストが出ている。

①異常な性行動
②神経性の食欲不振、強迫障害
③髪の毛や体毛、髭をむしり取る
④鳥が巣に居続ける
⑤カニバリスム(肉や内臓を食べる)
⑥糞便食、土や草を食べる、樹木を食べる
⑦肉食動物が草を食べる、草食動物が肉を食べる
⑧鉄枠を噛んだり曲げたり舐めたりする
⑨過剰に鳴いたり叫んだりする
⑩子殺し


などだ。飼育スペースが限られた動物園では、体を左右前後に揺らし続けることや目的もなく同じ行動を繰り返す常同行動もよく知られている。

しかし、多摩動物公園で撮影されたキリンがハトを食べる瞬間(「どうぶつと動物園」1970年3月号)も、その後、アフリカでキリンが死んだ動物の骨をしゃぶるのが確認されたことから、異常行動というべきかどうか判断が分かれることになった。動物の生態や行動はまだまだ謎だらけで、動物園での行動観察はもっと重視されるべきだ。

次に、現代の動物園や水族館は、国境を超えて世界の動物園・水族館と国際的なネットワークで結ばれてい。例えば、ホッキョクグマの飼育施設を細かく規定した「マニトバ・ルール」によると、居室に自然光が入ることが必要条件になっている。上野動物園のホッキョクグマ舎の通路の脇にも、自然光を入れる窓がある。こうし国際標準(Global Standard)を満たさないと、繁殖のためのブリーディング・ローンなど動物の国際的な貸し借りができなくなる。

米国動物園水族館協会(AZA)のホームページにはコンドル、ジャガー、クラゲ、マングース、ホッキョクグマ、ペンギン、トラなど30種以上の詳細な飼育マニュアが公開されている。チンパンジーなどはスペイン語版があり、チンパンジーには日本語訳まで付いていることからも、飼育基準の国際標準を目指していることがうかがえる。

飼育技術には国境がない。上野動物園のニホンザルを担当していた青木孝平さんは、サルに与える餌の量を季節変化させることを試みた。動物園では年間を通じて同じ量の餌を与えてきたが、野生なら、春は草木が芽吹いてテ食糧が増えるが、夏は食べ物が少なくなり、木の実などが豊富な秋から、厳しい冬へと季節変化が極めて大きい。青木さんは、米や麦、麻の実、シラカシ、ネズミモチ、笹など枝は、季節の果物や野菜、サル用ペレットなどの餌の量を調整して、1日の摂取量を春は570Kcal、夏470kcal、秋は610kcal、冬450kcalと変化させてみた。2011年から3年間、サル山にいる36頭の体重変化を調べた結果、野生に近い季節変化が確認できた。青木さんの報告は『Zoo Biology』(2015年5・6月号)に掲載され、プラハ動物園の飼育担当者から「我々も餌の量を季節変化させてみたい」とメールが届くなど国際的な反響があった、という。

世界には動物観の違いという厄介な問題もある。コペンハーゲン動物園で2014年2月9日、2歳のキリン♂(MARIUS)が近親交配で飼育に値しないとして安楽死させた。死体は来園者の見守る中で解体し、園内のライオンの餌となった。このケースは国際的に批判が巻き起こったが、欧州動物園水族館(EAZA、47か国・410園加盟)は「コペンハーゲン動物園の決定と方針を全面的に支持する」とコメント。AZAは「米国の動物園・水族館は過剰な繁殖を最小限に抑えていて、あんな事件は起こり得ない」と指摘、中には「前代未聞の最悪で無感覚の馬鹿げた処置」と呆れる動物園長もいた。

動物福祉を求める声が高まり、動物園の存在意義も大きく揺らいでいる。
スペインのバルセロナ動物園(1892年開園)は、300種類で12000頭の動物を飼育しているが、バルセロナ市議会が2019年5月、「動物園新計画」を満場一致で可決。2031年までに総額6億4600万ユーロ(約775億円)を投じて施設を整備、地中海の動物を中心に北アフリカ、サハラ砂漠の絶滅危惧種の保全に力を入れ、ライオン、キリンなどの繁殖は止める。動物園を環境教育の拠点とし大学や研究機関との連携を強化するという。ヨーロッパ初の「Animalist ZOO(動物権動物園)」とも言われるが、飼育している動物を原産地に戻したり、サンクチュアリを確保したり、実現性は極めて低いと思われる。

日本動物園水族館協会(JAZA)に入っている91園の飼育動物を全部合わせると、

① 哺乳類 31186点
② 鳥類 17947点
③ 爬虫類 4775点
④ 両生類 3514点
⑤ 魚類 235232点
⑥ 無脊椎動物 37442点


総計で118530点となる。職員数は正規・非正規を合わせて全部で4977人に達する。

これだけの動物を抱え、多くの職員が支える日本の動物園は、現在は、国際的なネットワークで結ばれた組織である。動物本来の生態や行動を可能な限り再現した環境で飼育することで、絶滅危惧種の復活など、「宇宙船・地球号」の自然生態系を未来の人類に伝えるのが、動物園の仕事ではないか。そのためにも動物福祉を大前提に、動物園そのものを再構築すべきである。


岩野 俊郎(到津の森公園 園長)
「動物園動物の福祉」



諸坂 佐利(神奈川大学法学部 准教授)
「わが国の動物園を取巻く法環境から見た動物園の価値、社会的役割、必要性」




 


総合討論


小菅正夫 氏(特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授)
岩野 俊郎 氏(北九州市 到津の森公園 園長)
清水 弟 氏(ジャーナリスト・元朝日新聞記者・東京動物園ボランティアーズ会員)
諸坂 佐利 氏(神奈川大学准教授)

司会・ファシリテーター:村田 浩一 氏(日本大学 特任教授)