活動報告

2019年5月の第13回のシンポジウムに多くの方の参加をいただき誠にありがとうございました。
テーマは『日本の動物園の新地平~北の大地から日本の動物園を考える』として会場を北海道札幌市円山動物園・科学館ホールにて地元北海道ほか全国より100名以上の市民らの参加者をいただき開催いたしました。

基調講演では当会の岩野俊郎氏から始まり、古賀公也・釧路市動物園園長、加藤修・円山動物園園長の講演をいただき、参加者のみなさまにこれまでの動物園のこと、そしてこれからの動物園、動物の飼育、保護、環境の保全のことまでを考えた意見の発表と提案をすることができました。目指す国立動物園のカタチやアイデア、また動物そのものの法律的な問題や解決への思いなど、6名(小菅氏、岩野氏、古賀氏、加藤氏、あべ氏、成島氏)による総合討論でものそれぞれの意見と提案を示しました。

旭山動物園を始め様々な取組みと挑戦をしてきた北の大地での第13回シンポジウムは地元メディアにも取り上げられ、新たな展開を感じさせるシンポジウムとなりました。


登壇者紹介


特定非営利活動法人国立動物園をつくる会主催
第13回 シンポジウム

場所:札幌市円山動物園 科学館ホール
日時:2019年5月11日(土)13:00~17:00
参加費:無料(※円山動物園への入場料金は必要です)
テーマ:『日本の動物園の新地平~北の大地から日本の動物園を考える』

開会あいさつ・シンポ趣旨説明
小菅 正夫 代表
(札幌市環境局参与円山動物園担当・北海道大学客員教授)

基調講演1(40分)
岩野 俊郎(到津の森公園 園長)
「動物園のデザイン」

基調講演2(40分)
古賀 公也(釧路市動物園 園長)
「市民に支えられる最東端の動物園の今」

基調講演3(40分)
加藤 修(円山動物園園長)
「円山の新挑戦、改革の進捗」

総合討論
司会:諸坂佐利(神奈川大学)

討論参加
小菅正夫、岩野俊郎、古賀公也、加藤修、あべ弘士、成島悦雄


開会あいさつ・シンポ趣旨説明




 


基調講演


岩野 俊郎(到津の森公園 園長)「動物園のデザイン」


12回のシンポジウムで取り上げたテーマ「動物園のデザイン」を13回シンポジウムではよりポリシーを必要とする動物園のデザインについて提示していく。動物園は「自由」に生きるという動物の「多様な選択肢」の剥奪になっている。これからの動物園は単に「見せる」、「見る」からいわゆる「展示」からの変革が必要。

この「展示」という言葉についてはここ数回のシンポジウムの討論においても表現についてから始まり、動物園のポリシーから生まれる、動物の見せ方にもつながっている。それは構造物のデザインのみでは変えることができない。

空間をどのように活用するか。どのような意図をもたせるか。なぜそれが必要か。デザインという言葉の意味は入念な「計画・立案」であり、重要なのは「ポリシー」あるいは「倫理的思考」である。「我々は何のために存在するのか」という哲学的な意義の確定。動物園にもそれが必要だ。明確なポリシーあるいはフィロソフィー。少なくとも直近10年もしくは15年揺るがない決心でおこなう。そして明確なコンセプトを持った戦略と準備、計画、運用を示す。



古賀 公也(釧路市動物園 園長)「市民に支えられる最東端の動物園の今」


釧路市動物園は北海道釧路市阿寒町にある日本最東端の動物園。 1975年に開園し総敷地面積47.8haとゆったりしとした北海道最大の動物園である。動物の保護研究機関として1995年に世界で初めてシマフクロウの飼育下での繁殖に成功しており、国内唯一のシマフクロウ保護育成センターになっている。

北海道の中でも自然豊かな環境の中にある。アムールトラのタイガとココアの懸命に生きようとする姿が注目され多くの市民や人に支えられて、多くのメディアや書籍にもなった。施設は決して先進的な展示や運営ができているわけではないが、タンチョウヅルをはじめ多くの繁殖と保育にも成功しており、何より市民に支えられての展示のアイデアなど、釧路という環境にある動物園としてこれから明確に何を伝えていくのか、環境の保全と動物の保全、市民や地域への感謝と還元を目指している。



加藤 修(円山動物園園長)「円山の新挑戦、改革の進捗」


1950年(昭和25年)上野動物園の移動動物園を札幌にて開催し、好評を得たことが起源。2003年(平成15年)に旭川市旭山動物園に入場者数を抜かれたがその後、整備に力を入れ始め入場者数は増加傾向にある。 最初の飼育展示動物は3種4点。2019年3月現在は168種943点(昆虫類を除く)を展示飼育。総面積は224,780㎡。飼育下での自然繁殖が難しいとされるホッキョクグマの繁殖に成功している。

現在ではホッキョクグマ館リニューアル、ゾウ舎オープンと、進化する動物園と称されているが、改善前は管理体制の見直しや全職員への適正飼育を理解するための教育の実施、動物の健康、安全のための施設の総点検など、多くの改善勧告を受けた動物園であった。

動物専門員という技術職員の配置で自らの仕事を自ら考え、上司と相談しながら自ら実施し、結果についても自ら責任をとることで意識と技術、スキル、経験値を高めていった。環境教育の施設として、より多くのお客様に来園していただくことは必要ではあるが、何人の方に来ていただくか、ではなく「来ていただいた方の何割の方に、自然や地球について考えていただけたか」が大切だと考えている。

すべての人が自然環境の大切さを「実感」し、自然を守るために「行動」し、自然と人が共生する持続可能な社会の「実現」に貢献するため、円山動物園は「動物福祉」を根幹に生物多様性の「保全」と「教育」に力を入れていくとともに「調査・研究」「リ・クリエーション」を行っていく。




 


総合討論


小菅正夫 氏
(特定非営利活動法人 代表理事・北海道大学 客員教授)

岩野 俊郎 氏(北九州市 到津の森公園 園長)
古賀 公也 氏(釧路市動物園 園長)
加藤 修 氏(円山動物園園長)
あべ 弘士 氏(絵本作家・NPO法人かわうそ倶楽部 理事長)
成島 悦雄 氏(公社)日本動物園水族館協会専務理事・日本獣医生命科学大学客員教授 

司会・進行:諸坂 佐利 氏(神奈川大学准教授)


第13回のシンポジウムの最終プログラムは園長経験を持つ小菅氏、元飼育員経験を持つあべ氏、現在も園長として運営に携わる岩野氏、古賀氏、加藤氏、そして豊富な知識と経験を持つ成島氏、それぞれの立場での意見を100名を越える市民や動物園関係者の前で討論できたことは「国立動物園の開設の必要」を一歩、二歩と踏み込んでこれからの動物園の意義や役割、環境や野生動物の保全に向けた考えを人々に伝える機会となった。
多くの国民が国立動物園を必要だと思っていただくことが大切であり、そのカタチは必ずしも新しい施設をつくることではなく、今ある環境、施設を活かし「保全に特化したセンターをつくって動物を飼育し、その様子を一般に見せていく施設」など、提案、アイデアは尽きることがない。国立の施設ができれば野生生物の研究、保全が進むであろう。また法律的にも動物園に意義や役割を定めた動物園法の整備も必要である。日本の動物園の今後について、これからも議論を交わし絶滅の危機にある動物の保護、多様性の維持を目指す。